歯の移植

むし歯や歯周病などで歯を失ってしまった場合、通常はブリッジや入れ歯、インプラント治療を行いますが、親知らずなどの余っている歯があって適切な条件が揃っていれば、その歯を欠損部に移植して機能を回復させることができます。

歯の移植治療は、①移植できる歯がある、②患者さんの年齢や移植する歯の形態が移植に適している、③移植する部位と移植する歯の大きさが合っている、など様々な条件をクリアする必要があり、術者にとっても簡単な治療ではないため、積極的に行っている歯科医院は多くありません。昔のイメージなのか、歯の移植はもたないからといって患者さんに勧めないということも聞きます。

しかしながら、私が10数年前に初めて移植を行った患者さんの歯も今日までしっかり機能しておりますし、多くの文献を見ても、移植に適するかどうかの見極めと適切な施術を行えば、長期に亘って維持することは可能であると私は考えております。

歯の移植によりお口の機能を回復することは、患者さんとって大変有益なことであると思いますので、当院では積極的に行っております。

メリット

  • 自分の歯で欠損部を回復できます。
  • 移植する歯は天然歯のため歯根膜が存在します。
  • ブリッジと違い隣接する歯を削らないで済みます。
  • 天然歯のためメインテナンスしやすいです。(矯正などもできます)
  • インプラントに比べて治療費を抑えることができます。

デメリット

  • 移植する歯に様々な制限があり、適応範囲が狭いです。
  • 患者さんの年齢や欠損部の状態、治療内容により予後に差が出ることがあります。
  • 術後に歯根吸収などを起こすことがあります。
  • 手技が複雑になることがあります。

治療の流れ

1.診査

レントゲン撮影・CT撮影・模型による診査を行います。

2.治療計画の説明

診査の内容を踏まえ、治療計画の説明をします。

3.移植手術

計画に同意いただけましたら、手術になります。

4.1週間毎の確認と調整

移植直後は移植した歯が動かないように固定をしますので、1週間毎に固定の確認や調整を行います。

5.根管治療

移植から2~3週後より根管治療を行います(成人で根の成長が終了している歯を移植した場合)。

6.経過観察

根の治療を行いながら2~3ヵ月間経過観察を行います。

7.補綴物の装着

根管治療終了後、被せ物や詰め物を装着します。

8.メインテナンス

メインテナンスを行っていきます。

治療例

治療例1

治療前

患者さんは、「奥歯で噛むと痛い」ということで来院されました。

奥歯のむし歯が進行して歯が破折してしまっており、保存が困難な状態です。

右下に親知らずがありますが、上顎に嚙み合う歯がないために、機能せず余っている状態でした。

治療開始

破折している奥歯の抜歯を行い、その後に親知らずを移植しました。移植した歯が動かないよう、縫合糸や接着性レジンで固定しています。

抜歯した親知らずです。歯根は単根であり、移植の成功に重要な歯根膜を極力温存した状態で抜歯することができました。

根管治療

移植後3週程で根管治療を開始し、根管充填を行いました。その後、移植した歯と一つ前の歯にセラミックスクラウンを装着しました。

治療後

移植後2年。歯根吸収なども認められず、良好に機能しています。今まで機能していなかった親知らずを、歯を喪失した部位に移植することで、最も自然な形で機能回復を図ることができました。

治療例2

治療前

患者さんは、奥歯がグラグラして噛めないということで来院されました。

奥歯の歯周病が進行して、根の先端まで骨が吸収してしまっています。保存が困難な状態です。

治療開始

抜歯と同時に、隣にある親知らず(横向きになっている歯)を移植しました。 動かないようワイヤーにて固定しています。

移植のために抜歯した親知らずです。

治療後

移植後1年。移植歯に付着している歯根膜の再生機能により、移植歯周囲の歯槽骨の改善が顕著に認められます。

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